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【ISMS対応】委託先管理の実践ガイド|効果的な管理方法と認証維持のポイント

コラム
委託先
Posted on:
January 23, 2025

近年、企業のIT化が加速する中で、さまざまな業務を外部の委託先に依頼するケースが増えています。特にISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得・維持する組織にとって、委託先の適切な管理は重要な要件の一つとなっています。しかし、「委託先の選定基準がわからない」「どこまで管理すればよいのか基準があいまい」「具体的な管理方法がわからない」といった声も多く聞かれます。本記事では、ISMSの要求事項に基づいた委託先管理の基礎から、具体的な選定・契約のポイント、さらには効果的な管理・運用方法まで、実践的な視点でご説明していきます。

ISMSの要求事項に基づく委託先管理の基礎

ISMSにおける委託先管理は、組織の情報セキュリティマネジメントシステムの重要な要素として位置づけられています。委託先を適切に管理することは、自社の情報資産を守るだけでなく、取引先や顧客からの信頼を維持することにもつながります。ここでは、委託先管理に関するISMSの基本的な要求事項と、その実践に必要な体制づくりについて解説します。

ISMSが定める委託先管理の要件とは

ISMSの国際規格であるISO/IEC 27001では、委託先管理に関する要求事項が明確に定められています。具体的には、委託先との契約前のセキュリティリスクの特定・評価、委託先との合意に基づくセキュリティ要件の確立、定期的なモニタリングと評価の実施が求められます。また、委託先が提供するサービスの変更管理や、インシデント発生時の対応・報告体制の構築も重要な要件となっています。これらの要件は、組織の情報セキュリティポリシーや関連規程に明確に文書化し、委託先との契約や合意事項に反映させる必要があります。

経営層の責任と役割

委託先管理における経営層の最も重要な責任は、適切な管理体制の確立とリソースの確保です。具体的には、委託先管理に関する方針の策定と承認、必要な人員・予算の割り当て、定期的なレビューの実施が求められます。また、重要な委託先との契約締結時や重大なセキュリティインシデント発生時には、ISMSの要求事項に基づき、経営層自身が意思決定に関与する必要があります。さらに、委託先管理の状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて是正措置を指示することも経営層の重要な役割となります。

管理体制の構築ステップ

委託先管理の体制構築は、まず管理責任者の任命から始まります。この責任者は、委託先管理に関する実務的な統括役として、社内の関連部門との調整や委託先との窓口機能を担います。次に、委託先の重要度に応じた管理レベルの設定と、それに基づく管理プロセスの確立を行います。具体的には、委託先の評価基準の策定、定期的な評価・モニタリングの手順、インシデント対応フローなどを整備します。また、これらの活動を効果的に進めるための社内教育・研修体制の確立も重要なステップとなります。

ISMSに準拠した委託先の選定・契約のポイント

ISMSに準拠した委託先管理を実現するためには、委託先の選定から契約締結までのプロセスを適切に設計・運用することが重要です。特に、セキュリティ要件の明確化と契約への反映、再委託に関する取り決めは慎重に検討する必要があります。ここでは、委託先の選定から契約締結までの重要なポイントについて解説します。

セキュリティ要件を考慮した選定基準

委託先の選定には、技術力や価格だけでなく、セキュリティ対策の実施状況を重要な判断基準とする必要があります。

■確認すべき項目

・第三者認証の取得状況

- ISMS認証

- プライバシーマーク

・社内体制の整備状況

- 情報セキュリティポリシーの整備

- セキュリティインシデントの対応実績

- 従業員教育の実施状況

■重要度に応じた追加確認項目

・物理的セキュリティ対策の状況

・アクセス制御の実装状況

・セキュリティ教育の実施頻度

これらの項目をチェックリスト化し、客観的な評価を行うことが推奨されます。

契約書における重要な記載事項

委託先との契約書には、一般的な業務委託の内容に加えて、ISMSの要求事項を満たすセキュリティ関連の条項を必ず含める必要があります。具体的には、秘密保持義務、情報資産の取り扱い方法、セキュリティ事故発生時の報告義務と対応手順、定期的な監査の受入れ義務などが重要です。また、契約終了時のデータの返却・消去に関する取り決めや、損害賠償責任の範囲についても明確に規定します。さらに、委託先の従業員に対するセキュリティ教育の実施義務なども、可能な限り契約書に含めることが望ましいでしょう。

再委託に関する管理のポイント

再委託に関する管理では、ISMSの要求事項に従って、まず委託先による再委託の可否を契約書で明確に定める必要があります。再委託を認める場合は、事前承認制を導入し、再委託先の選定基準や管理方法について委託先と合意しておくことが重要です。特に、再委託先に対するセキュリティ要件は、原則として委託先と同等以上のレベルを求めます。また、再委託先の監督責任は一義的に委託先にあることを明確にし、定期的な状況報告や問題発生時の即時報告体制についても取り決めておくと良いでしょう。

ISMSにおける委託先の定期評価と監視体制

ISMSにおける委託先管理では、契約締結後の定期的な評価と継続的な監視が大切です。委託先のセキュリティ対策の実効性を確認し、必要に応じて改善を促すことで、組織全体の情報セキュリティレベルを維持・向上させることができます。ここでは、効果的な評価・監視の具体的な方法について解説します。

定期的なセキュリティ評価の実施方法

委託先の定期的なセキュリティ評価は、年1回以上の頻度で実施することが推奨されます。評価方法としては、セルフチェック用評価シートの提出要請、リモートでの状況確認、実地調査など、委託業務の重要度に応じて適切な方法を選択します。評価の観点としては、ISMSで求められるセキュリティポリシーの遵守状況、従業員教育の実施状況、インシデント対応体制の整備状況、セキュリティパッチの適用状況などが重要です。また、評価結果は経営層に報告し、必要に応じて委託継続の判断材料として活用します。

監査・立入検査の進め方

委託先への監査・立入検査は、年間の監査計画に基づいて実施します。実施に際しては、まず評価シートやチェックリストなどの確認項目を準備し、委託先に事前通知を行います。現地では、管理体制の確認、セキュリティ対策の実施状況の視察、関連文書の確認、担当者へのインタビューなどを実施します。特に重要なのは、契約で定められたセキュリティ要件の遵守状況と、日常的な運用状況の確認です。また、監査結果は評価シートと報告書として文書化し、発見事項については改善計画の提出を求めます。

是正措置の要求と改善確認のプロセス

評価や監査で発見された不備に対しては、その重要度に応じて適切な是正措置を要求します。重要度の判断基準は、情報セキュリティリスクの大きさ、法令違反の可能性、契約要件との乖離度などを考慮して設定します。是正要求は文書で行い、対応期限を明確に示すとともに、改善計画の提出を求めます。また、重要な不備については、改善が完了するまで定期的に進捗を確認し、必要に応じて現地での確認も実施します。最終的な改善結果は文書で報告を受け、記録として保管します。

委託先との連携強化で実現するISMSの運用改善

ISMSの効果的な運用には、委託先との緊密な連携が不可欠です。特に、インシデント発生時の迅速な対応や、事業継続計画の実効性確保には、日頃からの協力体制の構築が重要となります。ここでは、委託先との連携を強化し、ISMSの運用レベルを向上させるための具体的な方法を解説します。

インシデント発生時の連絡体制の整備

セキュリティインシデント発生時の迅速な対応のために、ISMSの要求事項に基づいた委託先との連絡体制を明確に定めておく必要があります。具体的には、緊急連絡先リストの作成、エスカレーションルールの設定、初動対応手順の共有などが重要です。また、ISMSで定められた基準に従い、インシデントの重要度に応じた報告基準を設定し、どのような場合に誰に報告するのかを明確にしておきます。さらに、インシデント発生時の対応手順書を委託先と共同で作成し、ISMSの運用に沿って定期的に内容の見直しと更新を行うことで、実効性の高い体制を維持することができます。

事業継続計画の策定と運用

ISMSの要求事項に準拠した事業継続計画(BCP)の策定では、まず重要業務の特定と目標復旧時間の設定を行います。その上で、委託先との役割分担、バックアップ体制、代替手段の確保などを具体的に定めます。特に重要なのは、ISMSで求められる情報セキュリティの観点から、委託先のシステムやサービスが停止した場合の対応手順と、復旧までの暫定対応方法の明確化です。また、委託先が保有する重要データのバックアップ方法や、それらを用いた復旧手順についても、ISMSに基づく具体的な手順として文書化しておく必要があります。

定期的な合同演習の実施方法

委託先との合同演習は、インシデント対応体制と事業継続計画の実効性を確認する重要な機会です。演習は年1回以上の頻度で実施し、机上訓練とシステム復旧訓練を組み合わせて行います。演習シナリオは、サイバー攻撃、システム障害、自然災害など、様々なケースを想定して作成します。演習後は必ず振り返りを行い、発見された課題を文書化し、対応計画を作成します。また、演習結果は経営層に報告し、必要に応じて体制や手順の見直しを行います。

委託先管理の最適化でISMSの継続的な改善を実現しよう(まとめ)

ISMSにおける委託先管理は、単なるセキュリティ要件の遵守確認にとどまらず、組織全体の情報セキュリティレベルの向上に直結する重要な取り組みです。

■委託先管理のポイント

・適切な選定基準に基づく委託先の選定

・明確な契約条項の設定

・定期的な評価と監視の実施

・緊密な連携体制の構築

■継続的改善のためのPDCAサイクル

Plan:委託先管理方針の策定

Do:方針に基づく管理の実施

Check:定期的な評価・監査

Action:必要な改善の実施

これらの取り組みを継続的に実施することで、委託先を含めた効果的なISMSの運用が可能となります。自社の実情に合わせた管理体制を構築し、PDCAサイクルを着実に回していくことが、ISMSの成熟度向上への近道となります。

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